組織内会計士の活躍事例


住友スリーエム株式会社 財務本部 経理部 久保寺 大悟  氏

 

―― 会計士を目指した経緯(理由)をおしえてください。

 

久保寺氏:大学生になって将来のことを考えたときに、卒業してから40年近く働くことを考えると自分の専門分野を持って付加価値の高い仕事をした方が充実した人生を送れるだろうと考え、一生ものの資格を取ろうと思いました。法学部に在籍していましたので司法試験と迷ったのですが、数字という客観性のあるツールを駆使して会社の成長に貢献できるイメージのあった会計士の道を選びました。また、英語で会計を理解する能力を証明する資格が欲しいと思いUSCPAを取りました。

久保寺 大悟  氏


―― 監査法人ではどのような業務に従事されていましたか。

久保寺氏:新日本監査法人には2年9ヶ月間在籍し、主に監査業務をしていました。日本を代表するような上場会社から公開を目指すベンチャー企業まで幅広い規模・業種の監査を経験しました。上場会社の監査では触れられる事例も多く、会社の経営・管理の仕組みについてベストプラクティスを見られたことは私の財産です。早い段階でベンチャー企業の主査をやらせていただき監査の全体像が見られたのも大変良い経験でした。
監査法人に入る前に勤務していた大原簿記学校の講師時代の経験を評価していただきお客様向けの会社法セミナーの講師をやらせていただいたり、公開準備会社への営業活動をやらせていただいたりと、短い在籍期間ではありましたが大変充実していたように思います。

 

―― 監査法人を辞めて組織内会計士になった理由をおしえてください。
久保寺氏:知人が世界最大の出版社である米ランダムハウス社のアジア担当役員に就任し、日本子会社であるランダムハウス講談社を一緒に大きくしていかないかと誘われたのがきっかけです。誘いを受けた当時は三次試験の勉強のおかげで知識面で充実し、経験面でも充実してきた時期でしたので正直なところ転職は大変迷いました。監査法人で5~10年くらいはキャリアを積もうと考えていたからです。
しかし、世界的な出版社の日本法人の財務経理責任者というめったにないオファーだったこと、海外とつながりのある仕事をしたいと思っていたこと、様々なバックグラウンドの人が集まる事業会社で働くことで視野を広げたいと思ったため、思い切って転職を決意しました。監査という形で間接的に会社に貢献するよりも、自分がプレイヤーになって直接的に会社のバリューに貢献する方がエキサイティングで自分に向いていると思ったことも理由です。

 

―― 監査法人経験の強みとは何でしょうか、又は監査法人の経験が今に活かされていると思うことはありますか。

久保寺氏:監査法人経験の強みは様々な会社で多くの事例を見てベストプラクティスを知っていることです。自分の中に明確な判断基準があるため日々の業務での判断がブレません。監査調書を作る際にリードスケジュールを引いてそれをブレイクダウンしてアサーションを立証していく作業は正しい財務報告を考える上で事業会社でも大いに役立ちますし、自分の理解をドキュメンテーションする癖も監査法人で身につきました。リスクアプローチの考え方も事業会社で応用できます。これらのスキルは今の私の働き方のベースになっています。

 

―― 組織内会計士としての略歴と現在の仕事内容をおしえてください。

久保寺氏:新日本監査法人を退職し2006年にランダムハウス講談社に財務経理部長として入社しました。従業員30名程度の小さな会社でしたので財務経理だけでなく法務や人事などバックオフィス全般を見なければなりません。入社当初から4名の部下を持つことになったのですが、部下を持った経験もなくどのように接したら良いか分からず初めは大変苦労しました。

初めの一年間で財務・経理業務を軌道に乗せることを目指し、既存の会計処理の改善や社内規定や業績管理の仕組みの整備、また、毎月の親会社へのレポーティング効率化のための仕組みを作りました。取締役会や株主総会の議事録作成や税務申告も自分でやらなければならずカバーする範囲が広くて大変でしたが、成長を日々実感でき、自分の意図したように仕組みを作っていけるのは小さな会社ならではの楽しさでした。出版業界の知識が全くない状態で入社したため、業界誌を隅々まで読んだり、企画会議に欠かさず出たり、週に数回は書店に足を運んだりと現場の感覚を身につけるようにしました。CFOに昇格してからは、財務・経理という枠を超えてより会社の成長に貢献するべき立場になったので、予算作成、予実管理、投資計画策定、経営企画などの業務の比率が増えていきました。

その後、米国親会社の業績が悪化し、2010年に社長がMBOで全株式を買い取り完全にドメスティックな会社になったのを機に自分のキャリアを直すことになりました。小さな会社で一人で大体のことはできるようになったので、今度は世界を代表するようなエクセレントカンパニーで働きたいと思い住友スリーエムに転職しました。
住友スリーエムではコーポレートアカウンティングマネジャーとして、約10名のチームをまとめながらUS-GAAPおよびJ-GAAPに基づく決算を取りまとめています。入社翌年からは米国本社のグローバルファイナンスコンプライアンスのマネジャーも兼務しており、日本の内部統制構築・運用の責任者を務めるほか、海外のメンバーと一緒に全世界のスリーエムグループに適用する会計基準を作ったりしています。最近は組織再編や本社移転等の各種プロジェクトも担当しています。

 

―― 組織内会計士として公認会計士であることの強みとは何でしょうか。

久保寺氏:事業会社の中には特定分野に関して公認会計士よりずっと詳しい方はたくさんいますが、組織内会計士の強みは会計のフレームワークが高いレベルで身についている点です。会計士試験は財務会計のみならず管理会計や法律、監査論、経営学などビジネスに必要な知識の宝庫です。これらの知識を体系的に身につけているため判断がブレません。激しく変化する外部環境の中でも常に正しい判断をすることができる能力。これが組織内会計士の強みです。組織内会計士には無限の可能性があると思います。
組織内会計士の仕事の殆どは公認会計士の資格を持っていなくてもできるものです。私がそれでも会費を払って資格を維持しているのは、公認会計士を名乗る以上は常に知識をアップデートして自己研鑽を続けていく必要性があることを自覚して、自分に良いプレッシャーをかけるためです。

 

―― 組織内会計士に求められる資質やスキルにはどのようなものがありますか。

久保寺氏:財務や会計の知識はもちろんですが、他部署の社員と円滑にコミュニケーションを取るためのコミュニケーション能力が非常に重要です。自分の殻に閉じこもることなく会社のことを知り常に勉強を続ける努力も求められます。会計オペレーションを回していくためのITの知識も不可欠です。外資系企業の場合は開示を意識して業務を行うことが少なく、決算もUS-GAAPなりIFRSがメインであるため、監査小六法の細かい規定まで覚えているよりも、枝葉末節に拘らず重要なポイントを押さえて会計をツールとして使えることが重要だと思います。これだけ変化の激しい時代ですので変化をマネジメントしていくリーダーシップやプロジェクトマネジメント能力も求められます。外資系企業の場合は日系企業よりもこれらの能力が重視される比率が高いように思います。

 

―― 組織内会計士になってみて感じていること、勉強になったと思うことをおしえてください。

久保寺氏:会社が暴走することに対してブレーキをかけることも組織内会計士の重要な役割ですが、会社の成長に貢献するためにリスクを取ってアクセルの役割を果たすこともブレーキと同じかそれ以上に大事ということを学びました。公認会計士として常に最新の会計基準をアップデートすることに加えてビジネスのことも勉強しなければなりません。大変ですがそれらをうまく融合させることで大きな価値を作れると思っています。

 

―― ビジネスマンとして大事にしていることは何ですか。

久保寺氏:常に視野を広げること、チャレンジし続けること。

 

―― 若手会計士(または受験中の若者)へのメッセージをいただけますか。
久保寺氏:明るい話題に乏しい会計士業界ですが、公認会計士は今後も非常に魅力的な資格であることは間違いないでしょう。頑張った分のリターンがある資格だと思います。会計とビジネス洞察力を駆使して会社の成長に貢献できる組織内会計士の世界に一人でも多くの方に飛び込んできて頂けると大変嬉しいです。

 

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